広げたら飛び出した。しかも、きれいに並ばないから削った?大切な前歯なのに!!
再治療開始年齢:32歳3か月
当院での動的治療期間:2年5か月
前医での治療:マルチブラケット装置(ストレートエッジワイス)を使う非抜歯治療
主訴:矯正治療を受けたらだんだん前歯が飛び出して来て、口が閉じられなくなった。
左上前歯(でこぼこしているところ)を勝手に削られ不信になった。
保定期間:現在も保定中(保定3年経過)※保定期間は通常2年~3年(状態により異なります)
通院回数:3~4週間に1回程度、保定期間は4~6か月に1回程度
治療費の総額の目安(自費):2期治療:総額約67万~92万円 保定観察料:3千円/1回
副作用・リスク:歯根吸収が起こるリスクがあります。矯正治療中は歯磨きしにくい部分ができるため虫歯や歯周病になるリスクが高くなります。
※記載の治療費は治療当時の金額(税込)です。
「治らないから削りました」ってどういうこと?
前歯科医院で歯を抜かずに歯並びを拡大する矯正治療を受けて、1年2か月が経過した時点で当院に相談にいらした患者さんです。
以前かかっていた歯科医院では、いわゆる「拡大矯正」で歯を抜かずに治ると言われ、上顎にリンガルアーチとマルチブラケット装置(ストレートエッジワイズ)を装着し、半年後、下顎にマルチブラケット装置(ストレートエッジワイズ)装着して、歯並びを拡大する矯正治療を受けたところ、だんだん前歯が前に出てきて、口まで閉じなくなってきたそうです。
Case1やCase3でご紹介した患者さんが再治療に来院された時とよく似たお口です。いわば、非抜歯・拡大矯正治療の典型的な失敗症例で、案の定、あごの関節も時々痛みを感じるようになってきていました。
この患者さんの場合はさらにひどく、元々内側に引っ込んでしまっていた左上前歯(でこぼこしているところ)がうまく動かないからと言って、足りない隙間に無理に押し込むために、前歯を勝手に大きく削られてしまいました。(中切歯と側切歯のそれぞれが接する部分)
このことで決定的に前医に不信感を持ち、当院に相談に来られました。
口元のバランスを無視すること、歯を削ってごまかすことがNGです
当サイトでも何度かご紹介している通り、残念ながら、こちらの女性のようなご相談が後を絶ちません。
前歯がどんどん飛び出して来てしまうことは、歯を抜かずに、歯並びだけを整えようとする矯正治療で非常に起こりやすい問題なのです。口元のバランスやかみ合わせを無視して、でこぼこの歯並びを無理やり広げるだけで矯正治療をしようとするので、行き所のない歯は、前へ前へと出てきてしまうのです。美しくなりたくて矯正治療を受けたのに、これではまるでカッパのようではありませんか!
ましてや、治療が進んできてから、でこぼこが治ってこないからという理由で勝手に歯を削るのは、歯医者として疑問に感じざるを得ません。
アイウエオ矯正歯科医院での治療
検査
詳しく検査をしてみると、上下の前歯がともに前に出ており、口を閉じようとすると唇も前に突出して、オトガイ部分が突っ張って緊張した状態になっていました。上の歯並びはでこぼこがあり、左上前歯の隣接面(隣り合った面)が削られていました。そのため上の歯の正中は左側へ約1ミリずれていました。また、左上犬歯と第一小臼歯は根管治療歯(根っこを治療した歯)でした。
治療方針
そこで、前歯や口元の突出、でこぼこを治療する目的で、上下左右の第一小臼歯(前から4本目)を抜歯し、上下顎スタンダードエッジワイズ装置(与五沢エッジワイズシステム)を用いて矯正治療を行いました。
上前歯の削られた歯のところは、矯正治療後に一般歯科で歯冠修復していただく予定で治療を開始しました。
治療結果
治療は2年5か月で無事終了し、上の歯、下の歯ともに後ろに下がり、キレイな横顔になりました。それだけでなく、オトガイ部の突っ張りもなく、口が閉じやすくなったことにも満足されています。歯のデコボコがなくなり、かみ合わせも良くなりました。レントゲンでみると、歯の根っこは平行に並んでいて、あごの関節に変化はありませんでした。
現在は上下に保定装置をつけて保定観察しています。左上前歯は一般歯科で歯冠修復していただくように紹介しました。下の親知らずは抜歯する予定です。
治療前後でこんなにも変わる!
治療前と治療後の横顔を比べてみてください。鼻の頭とあごの先(オトガイ)を結んだE-lineから著しく飛び出していた口元が、きれいに線に接するくらいまで引っ込みました。
治療前と治療後の横顔、あなたならどちらが良いですか?
歯を抜かずに矯正治療ができるケースはありますが、こちらのケースのように、歯を並べるだけでなく、かみ合わせも見た目もきれいにするには、抜歯をしなくては治らないケースもたくさんあります。「歯を抜かなくても治せる」といわれるとつい治療を任せてしまいがちになりますが、「治る=治療のゴール」は治療する歯科医師によって異なります。
例えば、こちらの患者さんが持参された前医での資料を拝見しましたところ、歯のどの部分のスペースが●●mm足りないなど、実に細かく歯の状態が書き込まれていました。
前医で撮影した口腔内写真
私ならこれだけスペースが足りなければ、どうしても抜歯なしでは「見た目も良く、きちんと咬める歯列をつくる」という治療のゴールには到達できないと考えるところですが、前医が考えていたゴールは私のものとは全く違ったものだったということです。
治療を担当する歯科医師が治療のゴールをどのように考えているかの見極めは非常に難しいと思いますが、少なくとも、歯を抜かないこと、歯を抜くことのメリット・デメリットについて、きちんと説明してくれるところが良いと思います。